ご存知でしょうか?
旧ソビエト連邦・アゼルバイジャン出身のチェリスト、
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチを。
私の吹く、フルートという楽器は音域がとても高い。
フルートはオーケストラの中で、
フルートの小型版ともいえる「ピッコロ」の次に高い音域を担当する楽器である。
そのような楽器を担当しているもので、日頃は低音楽器の音が恋しくなる。
そんな時はチェロを聴く。
ロストロポーヴィチの演奏を初めて聴いた時、
チェロの音を超越して、人の歌声に聴こえた。
私が想うこの世で一番美しい音色を出す「楽器」は「人の声(歌声)」だと想う。
「楽器」とは音楽を奏でるために用いる器具のことであるが、
「歌声」というのは一番みじかで、
楽器(という器具)を通さずに直接的に強弱や自らの感情を表現出来るという意味では、
もっとも優れた「楽器」といえるのではないでしょうか?
そんなまるで人が「感情の極限」を表現したロストロポーヴィチの演奏は、
演奏技巧はさることながら、
とても伸びやかでしなやか。
音楽の隅々まで聴こえ(一音一音、全ての音が鮮明に聴こえる)奥が深い(音も深い)。
いつも安定した演奏を聴かせてくれる。
彼が75歳の時の小沢征爾指揮、サイトウ・キネン・オーケストラで、
交響詩『ドン・キホーテ』を映像で観たことがあるのですが・・・・、
超一流たちが集まって創り上げ奏でる音楽はミラクルクリエイティブ。
スペイン人作家ミゲル・センパンテスの小説「ドン・キホーテ」をモチーフに、
リヒャルト・シュトラウスが書いた曲(交響詩)なんですが、
ロストロポーヴィチは幼き頃からこの「ドン・キホーテ」の物語が大好きで、
かの有名な画家サルバドール・ダリにもドン・キホーテの絵を描いてプレゼントされたこともあるらしい(彼らは交流があった)。
オーケストラメンバーにもどんどん指示を出す。
「ドン・キホーテのその場面は〜だからもっとそこはp(ピアノ:小さな音量で)で表現すべき」
「その場面は盛り上がる前触れだからtempoはもっとゆった〜りと」
などなど。
穏やかだが、曲に対して情熱的な指示。
そのような彼にとっては特に思い入れがある作品の音楽に対して、
演奏は細部までこだわりが聴いてとれる。
ただ楽譜を正確に演奏しているだけではない。
物理的にそこに書かれていないものを読み取り演奏する。
(これが出来るのは彼は作曲も勉強したからであろう。
でも作曲ができるからと言ってそれが演奏能力と直結するかはまた別の才能と努力)
ロストロポーヴィチの名言。
音楽家は作曲家の楽譜を正しく読み、
それを正確に再現するのが仕事。
しかし技術的な正確さだけではまったく不十分で、
一番大切なことは音楽を通じ、作曲家の感情を伝えること。
その曲を作った時楽しかったのか?
もしかすると作曲家の「希望」が隠されているかもしれない。
「落胆」かもしれない。
この感情を伝える仕事は誰にでもできるわけではありません。
原則的に想像力を持っている人。
そして理想を追い求める心を持っている人。にのみ出来ます。
彼の演奏や音色の深みは、不安定だったヨーロッパ時代を駆け抜け、
人間の様々な感情を生きた証ではないでしょうか。
交響詩『ドン・キホーテ』の曲解説より。
こういうことが言える音楽家が超一流ではないだろうか。
「私は最後の音符で人間の命に緊張があることを示したいのです。
その時、私は自分が死ぬ直前のような気持ちになるのです。」
ソビエト時代に亡命。
愛称、スラヴァ。
2007年80歳、永眠。
晩年は世界中を演奏旅行でまわると同時に、教育と指揮に専念されていたようです。
チェロの巨匠。
私には「巨匠」を超越し「神」のように思える。
彼の演奏は「彼そのもの」です。
彼の歩んだ道、感情、見たもの全て。
彼の特におすすめ作品(どれも素晴らしく甲乙つけがたいですが)
交響詩『ドン・キホーテ』
(ロストロポーヴィチ 75歳 最後のドン・キホーテ)
ロストロポーヴィチ、小澤征爾&サイトウ・キネン・オーケストラ Blu-ray Disc
ショパン:チェロ・ソナタ、序奏と華麗なるポロネーズ/シューマン:アダージョとアレグロ
ピアノ アルゲリッチ
これはピアノがあのアルゲリッチで、「夢の競演」という名に相応しい!!